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【誕生秘話】新しい彫刻アートを生み出す ということ ④新しいアートを諦めること

シャインカーバーのみなさん、こんにちは!

 

いつもブログを読んでくださりありがとうございます。嬉しいです。

アカデミー長 田中淳也です。

 

今日は、シャインカービング開発秘話④を書きました。

 

この記事から読み始めても経緯がわかるように概略もつけておきましたが、

興味がある方は前回の記事から読んでいただけると幸いです。

【誕生秘話】新しい彫刻アートを生み出す ということ ①魚が苦手な魚屋二代目

【誕生秘話】新しい彫刻アートを生み出す ということ ②素人の僕にできること

【誕生秘話】新しい彫刻アートを生み出す ということ ③輝く異星人

前回までのあらすじ

老舗彫刻刀メーカーの跡取りである筆者(田中淳也)は、自分が彫刻刀を愛いていないことに悩んでいた。その原因が”彫刻アート”自体を愛していないからであると気づくと同時に、既存の彫刻アートではなく、自分が愛することのできる新しい彫刻アートを生み出したい、という思いを強く胸に抱く。(第一話)

様々な”彫られるべきでないモノ”を彫刻刀で彫っていくなかで、ウルトラマン怪獣の彫り心地に感動。光沢のあるその彫り跡はこれまでのどの素材とも異なっていた。素材を調べるとPVC(塩ビ)であることが判明し、自分の直感を信じ、この素材を利用して新しい彫刻アートを生み出そうと決意する。(第二話)

PVC素材を使った新しい彫刻アートに、ソフビ人形を採用することを決定。海外のマニア向けにエイリアンの頭を彫るソフビ人形(SofViCK)として開発することに明け暮れる日々の中、お客さんのふとした一声でLEDライトを装着した光るエイリアンが完成した。(第三話)

 

 

“歪み”の収束点

光るエイリアンSofViCK(ソフビック)のプロトタイプ(試作品)が到着したちょうどその日、

僕宛てに一本の電話がかかってきました。

 

 

 

「彫刻刀で彫るエイリアンの取材がしたいんですが・・・」

 

 

 

 

よく話を聞いてみると、

ワールドビジネスサテライトの”トレたま”

という番組のご担当者さんからで、トレたまへの出演依頼だったんです。

 

 

 

 

 

以前からお世話になっているクラウドファンディングのブロガーさんに

ソフビックの記事を書いていただいていたのですが、それを読んで興味を持ってくださったとのこと。

 

 

 

 

ついにきた!

 

 

 

電話越しには平静を装っていましたが、

心の中は嬉しさでいっぱい。

 

 

 

以前、僕は自分の開発したキッチンツールをNHKの番組に取り上げてもらった経験がありました。

その時には、放送後に何件も取り扱いの連絡をいただいたり、うちの既存の商品がたくさん売れたり、素晴らしい宣伝効果があったんです。

番組自体も好評で、最終的には8ヵ国語に翻訳・30ヵ国のNHK国際番組に放送されました。

 

 

 

 

 

トレたまといえば、テレビ東京発、夜の人気番組。

少なくとも数万人がソフビックをみてくれる。

 

もの凄い宣伝効果だ

 

下手したら海外向けだったけど、国内でも爆発的に売れるんじゃないか?

 

 

 

取材の依頼は、即答で”出演します“でした。

 

 

 

すぐに収録したいということで、翌週には撮影のために日帰りで東京へ。

 

 

 

 

行きの新幹線では、注文が殺到している様を思い描いて

ずーっとニヤニヤ。

 

 

 

国内でも予約販売しようか。

事前告知サイトや連絡用フォームを作らなきゃ。

増産するとエイリアンをもっと安く作れるぞ。

 

 

 

そんな皮算用をしながら、東京に到着。

ディレクターさんとお会いし、事前打ち合わせを少し。

 

撮影会場は、エイリアンを企画・製造してくださった(株)ハシモトさんの

遊び心溢れるオフィスでさせていただくことにしました。

 

 

13時すぎ、撮影スタート。

 

 

 

リポーターさんがエイリアンが詰まった箱を覗き込み、

 

 

今日のトレたまはこちら・・・・エイリアン?

リポーターさんは本当に上手。

彫刻刀で簡単にオリジナルエイリアンが作れる、ということを

実際にソフビックを体験しながらわかりやすく紹介してくれました。

僕も僭越ながら出演させてもらい、ソフビックの魅力を頑張って伝えました。

実際の動画もここにアップしたいのですが、テレ東さんに著作権があるため、画像だけでご容赦ください。

 

収録後にリポーターさんと一緒に記念撮影もしてもらい、岐阜へ帰りました。

 

放送はいつなんですか?と聞くと、

今日の夜です。

と言われてびっくり。

 

なんと、トレたまは

当日収録・当日編集当日放送

というとてつもないハードスケジュールな番組だったんです。

 

 

 

岐阜に到着後、大急ぎで

国内予約ページを準備

明日たくさんかかってくるであろう電話に応対するためのFAQリスト作り

 

 

などを済ませ、気付いたら夜11時。

 

 

トレたまが放送される時間です。

 

 

 

展示会でソフビックを”欲しい”といってくれる人が異様に少なかったという事実

新しい彫刻アートに対する自分の強烈な期待

 

この事実と期待が生み出す歪みに収束点があるとしたら、多分、今この瞬間だ。

僕のエイリアン達は

きっと大人気なアートになる。

その答えがもうすぐわかる。

 

答え合わせ

放送の瞬間、僕は自分のサイトのリアルタイム統計データを注視していました。

 

 

今、この瞬間に義春刃物HPを何人が見ているか

 

 

そんな貴重な情報を無料で知ることができる世の中、なんて素晴らしいんだろう。

 

 

そんなことを思いながら、HP閲覧数が跳ね上がる瞬間を今か今かと待ち構えていました。

 

 

 

 

期待通り、跳ね上がる閲覧者数。

1000、2000…

 

 

 

こんな同時アクセス数、今まで見たことがない

どんどん数字が増えていき、鼓動も高まります。

 

 

 

これはいける。僕は間違っていなかった

 

自分が誤った方向に暴走していなかった、ということを自分自身に言い聞かせて安心したい

この時の心境は、まさにそんな感じでした。

 

 

 

見てくれる人は、興味があるから見てくれるんだ。

予約ページにも、数百人規模で予約注文がくるに違いない

 

 

 

 

予約情報を管理するページを何度も更新してみる。

 

 

 

増えない。

 

 

 

ちら、ほら、

と予約してくれる人はいましたが、ほんの数人。

 

 

 

 

相変わらず、HPのアクセスはすごいことになっています。

 

 

 

 

予約数が増えない・・・・

 

 

 

 

深夜11時から3時間くらい画面とにらめっこ。

 

 

 

深夜2時、酷い目眩を感じて一旦休憩。

 

 

さすがに身体に限界が来たようでした。

移動・撮影・準備など、今朝からずっと気を張っていたんですね。

 

 

今日はもう休もう。

 

 

明日になったら状況が変わるに違いない。

 

 

翌朝、起きてまず向かったのはPC。

 

 

画面を確認すると、昨日から今まででHPを見てくれた人は6,000人以上

これは、当時の義春刃物HPにおける通常の1000倍にも達する数字でした。

 

 

でも、予約してくれた人はたった4人

 

 

結果にうなだれながら出社し、電話での問合せ件数に最後の望みをかけました。

 

 

 

問合せ件数:3件

 

 

 

あり得ない数字。

 

 

 

通常、テレビで商品が放送されると数十件の問合せがあるものです。

過去、うちの会社でも終日電話が鳴り止まなかった経験もありました。

 

 

でも、今回は

 

 

インターネットでも売れず

電話でも売れない

 

 

 

 

 

「テレビ見たよ!すごいね!」

 

 

 

「めちゃくちゃ反響あったでしょ!うちも紹介して欲しいなぁ」

 

 

 

僕をよく知る友人やSNSで交流のある方から届くお祝いのメッセージ

 

 

 

いつもなら心から喜ぶはずの、この暖かいプレゼントですら

その時は皮肉に感じてしまっていました

 

 

 

周りからは成功したと思われているのに

その実、自分ではうまくことが運んでいるとは思えない

 

 

 

愛すべき彫刻アートを生み出すんだ

という思いに至る、僕が密かに悩んでいたこととそっくりじゃないか

 

 

 

振り出しに戻ったのか?

 

 

 

僕の考えた新しい彫刻アート”ソフビック”は、発売を待たずして

期待と違和感が組み合わさった時の残酷な答え合わせ

が行われてしまいました。

 

千体のエイリアン

海外でのクラウドファンディングも案の定うまくいきませんでした

 

 

 

 

これまでの数ヶ月間にしてきた広告活動は

展示会、対面、テレビ、インターネットでの広告

など、多岐にわたります。

 

 

 

どの場所でも、注目度は非常に高い

 

 

でも、実際に欲しい!とは思ってもらえない

 

 

 

 

残ったものは、十件に満たない予約注文と

既に発注して生産が開始された千体のエイリアン

 

 

 

ここまで顕著に結果が出ていれば、

この新しいアートに惚れ、入れ込み、周りが見えていなかった僕にでも予想ができました。

 

 

 

ソフビックは発売しても上手くいかないだろう。

 

 

 

千体のエイリアンが届く前なのに

ソフビックはまだ発売すらしていないのに

 

僕の心は折れかかっていました。

 

新しいアートを諦めること

ある日、僕は真夜中に会社のデスクで一人ぼーっと座っていました。

 

 

自分が駆け抜けた日々を少しだけ思い出しながら。

 

 

土屋仁応さんのあの作品に出会ったのはちょうど半年前

あの時の胸の高鳴り、感動を原動力に、無我夢中でここまでやってきた。

 

努力もしたと思う。情熱もかけたと思う。

 

でも、やっぱり新しいアートを生み出すなんて簡単じゃないんだな

 

 

僕はダメなやつだ。

 

 

自分が必死になって生み出したものが、世間に受け入れられなかった

 

このことを、その時の僕は自分自身を否定されたかようにさえ感じていました。

 

 

エイリアンの大ヒットは諦めて、細々と在庫を売り切ってから木彫り用の新しい商品でも考えようか・・・

 

 

諦める

 

 

新しいアート、諦めようか。

 

 

この苦しみから開放されたい、という気持ちから

諦めようとした時、目に入った一体のエイリアン

 

 

ライトを点けると輝く、PVC製のエイリアン

 

 

美しいな。

本当に美しい。

 

 

 

ガラスのような、透き通った艶のある質感を持った彫り跡を通過してくる輝き

 

 

 

世界中で、誰も知らなかった、ソフビの輝きの美しさ

 

 

 

この美しさも諦めてしまうのか。

 

 

 

いや、諦めたくない。

 

 

 

状況は何にも好転していませんが、僕の中で何かのスイッチが入ったようでした。

 

 

 

僕がやれることはまだたくさんあるはずだ。

 

 

 

今の僕に足りていないものを、これから見つけていこう。

 

 

暗い暗い、失望の崖から僕を引っ張り上げてくれたのは

自分自身が生み出した、輝くエイリアンでした。

 

 

 

PVCという素材で、新しいアートを生み出すんだ。

 

 

 

僕の感じた、この直感だけは絶対に諦めたくないんだ。

 

 

 

続く

 

 

アカデミー長

田中淳也